あんまり覚えてないや

ポップカルチャーを忘れないようにつらつらと。

岩井俊二『ラストレター』

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待望の岩井監督作品。淡くて切ない素敵な映画でした。誰かを好きになって、恋をする、この思い出だけで私たちは生きられる。たとえその恋の結末が悲しいものだとしても、誰かを愛し愛されて生きたあの日々が、これからもずっと私たちの今を照らしてくれて前に進めるんだ。そんな風に私たちの背中を優しくそっと押してくれるような物語でした。本当に尊い・・・役者陣も素晴らしかった。広瀬すずと森七菜の天使のようなかわいさは圧巻でした。広瀬すずは年々雰囲気が良くなって、目が本当に綺麗だ・・・福山雅治はあの情けない役柄も完璧に自分のものにしていてかっこよかったです。

演出も最高だったなー未咲を本作通じて一切登場させないことで、少しずつ彼らが交わす手紙によって私たちが知らない未咲が浮かび上がってくる構成とテンポ感が抜群。「手紙」という伝達までにタイムラグがあるものを、少しずつインサートで組み立てていくスピード感の描き方はさすが岩井監督です。あと生と死の世界の視点の描き方がすごく印象的。今作は森のロングショットから鮎美たちが水辺で遊ぶ姿のヨリのショットで始まるのですが、前者は死者から即ち未咲の視点で後者は今を生きる者たちの視点。ラストの鏡史郎、鮎美、颯香の会話シーンも遺影越しや俯瞰の画、そして仏壇に灯されるろうそくの火が未咲はすぐそばで見守っているんだと感じさせるカメラワークや構図は美しかった。そしてこの作品を通じて描かれる様々な「二つ」のモチーフ。鮎美(広瀬すず)と颯香(森七菜)は、高校時代の母親の二役を演じ、未咲と裕里は二人姉妹、颯香の父が急に飼うことにした二匹の犬、生と死の視点、過去と現在などさまざまな「二つ」の世界をモチーフとしての描き方が本当に細部まで丁寧で感動しました。ただ、2時間の映画にとどめておくには惜しい作品という印象も受けたかな。大学時代の未咲と鏡史郎の恋愛や、どうして未咲はダメ男にはまってしまったのか?この辺りも深く描いて欲しかったな。2時間だと男目線しか描かれてなくて、女性目線が物足りない印象でした。
いずれにせよ岩井俊二の代表作として何十年後も語られるであろう大傑作であることは違いないです。2020年は名作映画の連続で幸せだ~